杉本寺は、神奈川県鎌倉市二階堂にある天台宗の寺院で、山号は大蔵山です。本尊は十一面観世音菩薩であり、坂東三十三観音・鎌倉三十三箇所の第1番札所として知られています。杉本寺は鎌倉最古の寺院とされ、その参道にある苔むした石段が特に有名です。
杉本寺の歴史は731年（天平3年）に始まります。当時、東国を旅していた行基が、この地が観音様を祀るのにふさわしいと考え、自ら彫刻した十一面観音を安置したことが寺の始まりとされています。その後、734年（天平6年）、光明皇后が観音菩薩のお告げにより、東国の治安を祈願して、右大臣藤原房前と行基に本堂を建立させたと伝えられています。
杉本寺はその後、851年（仁寿元年）に円仁（慈覚大師）が参詣し、十一面観音菩薩を自ら刻んで安置しました。986年（寛和2年）には、花山法皇の命により、源信（恵心僧都）が新たな十一面観音菩薩を刻みました。杉本寺は鎌倉の地において、重要な巡礼地として発展していきます。
しかし、文治5年（1189年）には堂宇が焼失しましたが、その際、本尊の観音像三体が自ら本堂を出て境内の大杉の下に避難したという伝説が残っています。この出来事から「杉の本の観音」と呼ばれるようになりました。また、同年には源頼朝が杉本寺を参拝し、修理料を寄進したと伝えられています。
杉本寺の背後には、かつて杉本城がありました。足利方の武将であった斯波家長がこの城を拠点にしましたが、南朝方の北畠顕家に攻められ、最終的にはこの寺で自害することとなりました。この出来事は杉本寺の歴史における重要なエピソードの一つです。
杉本寺の本尊は十一面観世音菩薩で、その真言は「おん まか きゃろにきゃ そわか」です。また、杉本寺のご詠歌は以下の通りです。
頼みあるしるべなりけり杉本の 誓ひは末の世にもかはらじ
杉本寺の山門は金沢街道から石段を上った先に位置しており、切妻造の茅葺の八脚門です。この門の左右には金剛力士（仁王）像が安置されており、江戸時代、18世紀半ば頃に建立されたものです。
杉本寺の本堂は寄棟造で、茅葺屋根の方五間（正面側面とも柱間が5間）の密教仏堂です。延宝6年（1678年）の棟札が残っており、この時期に建立されたことが確認されています。堂内には多数の仏像が安置されており、特に重要な三体の十一面観音立像が本尊として祀られています。そのうち中央と左の像は国の重要文化財に指定されています。これらの像は通常秘仏として閉ざされていますが、毎月1日と18日に開帳されます。
杉本寺の本尊である三体の十一面観音立像は秘仏として安置されており、通常は拝観できませんが、毎月1日と18日に開帳されます。
左の像（向かって右）は、源信（恵心僧都）作と伝承され、像高142センチメートル、寄木造りで漆箔仕上げです。しかし、実際には鎌倉時代に制作されたと考えられています。
中央の像は、円仁（慈覚大師）作と伝承され、像高166.7センチメートル、寄木造りで漆箔仕上げです。衣文に平安時代の様式が見られますが、鎌倉時代に制作されたものとされています。
右の像（向かって左）は、行基作と伝えられ、像高153センチメートルで、素木の一木造りです。この像は最も古いとされ、平安時代末期の作品と推定されています。「覆面観音」や「下馬観音」の別称があり、その由来は、信心を欠き馬に乗ったまま杉本寺の門前を通ろうとした者が必ず落馬したため、この観音像の顔を覆ったことで落馬が止まったという伝承に基づいています。
杉本寺の本堂内には、源頼朝が寄進したとされる前立十一面観音像や、不動明王像、毘沙門天像などが安置されています。また、新十一面観音像や地蔵菩薩像もあり、これらの仏像は鎌倉時代から昭和期にかけて制作されたものです。
杉本寺の境内には鐘楼堂や権現堂、弁天堂などの建築物もあります。権現堂には白山、熊野両権現尊が祀られており、弁天堂には財宝や利得の神として知られる弁財天が祀られています。
杉本寺では、1月1日に新年大護摩供が行われ、参拝者の願い事を記した護摩木が焚かれます。また、1月18日には初観音大護摩供、2月3日には節分会大護摩供、4月8日には灌仏会（花祭り）が行われます。8月10日には四万六千日大祭が行われ、この日には特別な功徳があるとされています。12月31日には除夜の鐘が鳴らされ、新年を迎える準備が整います。
杉本寺では、毎月1日と18日に観音護摩供が厳修されます。これにより、参拝者は観音菩薩のご加護を受けることができます。
杉本寺には、国指定の重要文化財が複数あります。特に木造十一面観音立像は、1899年（明治32年）8月1日に指定され、その中でも円仁（慈覚大師）作と伝えられるものと、源信（恵心僧都）作と伝えられるものが重要視されています。
また、杉本寺の観音堂は神奈川県指定文化財として1977年（昭和52年）11月18日に指定されました。さらに、鎌倉市指定文化財としては、木造彩色十一面観音立像や木造地蔵菩薩立像が指定されています。
杉本寺の所在地は神奈川県鎌倉市二階堂903です。JR東日本の横須賀線や江ノ島電鉄「鎌倉駅」から、京浜急行バス鎌23系統、鎌24系統、鎌36系統に乗り、「杉本観音」バス停で下車、徒歩1分でアクセスできます。また、鎌倉駅から徒歩約30分でも訪れることが可能です。