海蔵寺は、神奈川県鎌倉市扇ガ谷（おうぎがやつ）に位置する臨済宗建長寺派の寺院で、山号は扇谷山（せんこくざん）と称します。本尊は薬師如来で、深い歴史と自然の美しさが調和した「花の寺」としても知られています。
海蔵寺の創建は、建長5年（1253年）に遡ります。宗尊親王の命により、藤原仲能がこの寺を創立しましたが、鎌倉幕府の滅亡時に焼失しました。その後、応永元年（1394年）、上杉氏定の開基、心昭空外を開山として再興されました。この寺は、鎌倉公方足利氏満の命により再建され、扇ガ谷上杉氏に外護されました。
かつて海蔵寺は真言宗の寺院として建てられ、宗尊親王の命により藤原仲能が本願主となって七堂伽藍が再建されました。しかし、1333年（元弘3年）の鎌倉幕府滅亡の際、兵火によって寺の建物は焼失しました。その後、1394年（応永元年）に第二代鎌倉公方足利氏満の命により、上杉氏定が禅宗寺院として再建し、以後、扇ガ谷上杉氏に保護されて現在に至ります。
現在の仏殿は1775年（安永5年）に浄智寺から移されたもので、薬師如来像や十二神将像が祀られています。この薬師如来像は、「啼薬師（なきやくし）」または「児護薬師（こもりやくし）」とも呼ばれ、源翁和尚（空外）が赤児の泣き声を頼りに土中から掘り出したと伝えられる仏面が胎内に納められています。
海蔵寺の山門は四脚門で、修理時に発見された応仁2年（1468年）の墨書から、古くから存在していたことがわかります。しかし、現在の門は江戸時代に再建されたもので、大部分の材がその時代のものです。
寺の入口にある「底脱の井」は、鎌倉十井の一つとされています。この井戸には、安達泰盛の娘である千代能が詠んだ「千代能がいただく桶の底ぬけて水たまらねは月もやどらず」という歌が由来と伝えられています。
「十六の井」は、薬師堂裏手の岩窟内にあり、岩窟の床面には縦横各4列、計16の丸穴があり、そこから水が湧き出しています。井戸ではなく、納骨穴や十六菩薩になぞらえたものとも言われていますが、正確なことは不明です。また、岩窟の奥には観音菩薩像と弘法大師像が祀られています。
海蔵寺は四季折々の花が咲く美しい庭園で知られています。春にはカイドウ、夏にはノウゼンカズラ、初秋にはハギ、そして初春にはウメが見事に咲き誇り、訪れる人々の目を楽しませます。また、本堂裏手には非公開の回遊式庭園があり、手入れが行き届いた美しい風景が広がっています。
庫裏は2階建てで、出桁造りの建物です。江戸時代に建てられたもので、現在もその姿を保っています。
海蔵寺は、鎌倉時代から続く長い歴史を持ち、建物や庭園、井戸など多くの文化財が残されています。また、四季を通じて美しい花が咲き乱れる「花の寺」としても多くの参拝者に親しまれています。静かな雰囲気の中で、歴史と自然の調和を感じることができる場所です。