高徳院は、神奈川県鎌倉市長谷に位置する浄土宗の寺院で、その本尊は国宝に指定された銅造阿弥陀如来坐像、通称「鎌倉大仏」です。正式名称は「大異山高徳院清浄泉寺（だいいざん こうとくいん しょうじょうせんじ）」であり、開基（創立者）と開山（初代住職）は明らかにされていません。
高徳院の境内一帯は、2004年（平成16年）2月27日に「鎌倉大仏殿跡」として国の史跡に指定されました。鎌倉大仏は、東大寺大仏（奈良）と並び、日本に現存する大仏の中でも非常に貴重なものです。その造立経緯や、大仏殿の倒壊時期については複数の説があり、歴史的な謎が残されています。
江戸時代には、鎌倉大仏（像高約11.39m）、東大寺大仏（像高約14.7m）、方広寺大仏（京の大仏、像高約19m）の三尊が「日本三大仏」と称されていました。現在の住職は慶應義塾大学教授の佐藤孝雄氏が務めています。
高徳院は、鎌倉のシンボルとして広く知られる大仏を本尊としていますが、開山や開基についての詳しい記録は残っておらず、大仏の造立に関する資料も乏しいため、その経緯には不明な点が多いです。
一説には、現在の高徳院は、鎌倉市材木座にある光明寺の奥の院を移建したものであると言われていますが、これも確証があるわけではありません。初期の高徳院は真言宗に属しており、鎌倉・極楽寺の開山である忍性（にんしょう）が住持を務めていました。後に臨済宗に属し、建長寺の末寺となりましたが、江戸時代の正徳年間（1711年 - 1716年）に増上寺の祐天上人による再興を経て浄土宗に転じ、現在は材木座の光明寺の末寺として位置づけられています。
鎌倉大仏の造立については、『吾妻鏡』において、暦仁元年（1238年）に僧・浄光（じょうこう）が深沢の地（現・大仏の所在地）で大仏堂の建立を始めたと記されています。寛元元年（1243年）には開眼供養が行われたものの、その時点で大仏は木造であったことが記録されています。一方、建長4年（1252年）から深沢里にて金銅八丈の釈迦如来像の造立が開始されたという記述もあり、この1252年から造立が始まった大仏が、現在の鎌倉大仏であるという説が一般的です。
当初、鎌倉大仏は大仏殿内に安置されていましたが、強風や地震、津波などにより度重なる倒壊を経験しました。特に、室町時代の応安2年（1369年）には大仏殿が倒壊し、その後再建されることはなかったとされています。その結果、大仏は露座（ろざ）で安置されることとなり、現在に至っています。
江戸中期には、祐天上人と浅草の商人・野島新左衛門の寄付により鎌倉大仏の修復が行われ、鎌倉大仏の保存が図られました。さらに、大正12年の関東大震災では基壇が1m沈下しましたが、翌年には修理が行われ、その後も定期的に修復が行われています。最近では、2017年1月から3月にかけて保存修理と調査が実施されました。
鎌倉大仏は、像高約11.39メートル（台座を含め高さ13.35メートル）、重量約121トンの銅造阿弥陀如来坐像で、鎌倉時代を代表する仏教彫刻として国宝に指定されています。鎌倉期に流行した「宋風」の仏像の特色を持ち、角張った平面的な面相や低い肉髻（にっけい）、猫背気味の姿勢が特徴です。浄土教信仰に基づく阿弥陀像が多く見られる中で、この像は膝上で両手を組む定印（じょういん）を結んでおり、真言ないし天台系の信仰に基づいて造られたものと考えられています。
像の鋳造には、河内の鋳物師・丹治久友が関与しており、体部が7段、頭部は前面が5段、背面が6段に分けて鋳造されています。材質は青銅（銅、錫、鉛等の合金）であり、1960年代に行われた材質調査によって、銅の含有量が少なく、鉛の比率が高いことが判明しました。このため、造像当初は金箔を貼っていたものの、鍍金（金メッキ）は困難であったと推定されています。
内部は空洞であり、一般拝観者も大仏の内部を見学することができます。最近では、2016年に大仏の保存修理とエックス線調査が行われ、鎌倉市で開かれたシンポジウムでその結果が報告されました。
高徳院の境内には、観月堂や与謝野晶子歌碑などがあり、歴史と文化が感じられる場所となっています。観月堂は、1924年に山一證券の前身である山一合資会社の社長、杉野喜精が寄贈したもので、内部には徳川秀忠が所持していたとされる聖観音像が安置されています。
交通アクセスは、江ノ島電鉄（江ノ電）の長谷駅から徒歩で約9分、または江ノ島電鉄・京浜急行バスで鎌倉駅や藤沢駅から乗車し、大仏前バス停で下車すると便利です。