英勝寺は、神奈川県鎌倉市扇ガ谷にある浄土宗の寺院であり、現在、鎌倉唯一の尼寺として知られています。山号は東光山と称し、その寺域は、開基である英勝院尼の祖先であり、扇谷上杉家の家宰を務めた太田道灌の邸宅跡地とされています。また、英勝寺は東国花の寺百ヶ寺の鎌倉6番札所にも指定されています。
徳川家康の側室であったお勝の方は、太田道灌の4代目である太田康資の娘とされています。家康との間に生まれた市姫が幼くして亡くなった後、お勝の方は家康の命により、後に初代水戸藩主となる徳川頼房の養母を務めました。家康の死後、彼女は落飾して英勝院と称しましたが、その後、3代将軍家光より父祖の地である扇ガ谷の地を賜り、英勝寺を創建しました。
創建に際しては、徳川頼房の娘である小良姫を7歳の時に玉峯清因と名付けて得度させ、彼女を門主に迎えて開山としました。英勝院尼は寛永19年（1642年）に没し、英勝寺裏山に葬られました。寺領としては、寛永14年（または15年）に池子村（現逗子市池子）420石を与えられ、裏山にあたる源氏山（旗立山）も賜りました。
創建以来、英勝寺の住持は代々水戸家の姫が務め、これにより「水戸御殿」や「水戸の尼寺」とも呼ばれました。しかし、明治維新を機に水戸家からの住持は絶え、寺勢は衰退しました。その後、明治28年（1895年）に松平家より住持を迎え、大正8年（1919年）以降は東京青山善光寺より住職を招請し、今日に至っています。
大正12年（1923年）の関東大震災では、山門、庫裏、蔵が倒壊するなど大きな被害を受けました。山門はそのまま鎌倉市内山王ヶ谷（小町3丁目）の資産家に売却されましたが、有志による復興事業によって旧地の礎石上に復興され、2011年5月16日に落慶式が行われました。
英勝寺の仏殿、山門、鐘楼は寛永20年（1643年）に建立されました。祠堂や祠堂門も同じ頃の建立とされ、これらの5棟は国の重要文化財に一括指定されています。各建物は本格的な禅宗様式であり、仏殿、山門、鐘楼は直線的な屋根を特徴としています。
仏殿は方三間の禅宗様仏堂で、屋根は寄棟造り、瓦棒銅板葺きです。仏殿内部には本尊である阿弥陀三尊像が安置されており、徳川家光の寄進によるものです。
祠堂は宝形造で銅瓦葺きの建物であり、英勝院の位牌が祀られています。徳川光圀によって建立されたとされ、鮮やかな彩色装飾が施されています。祠堂門は平唐門で、祠堂と共に建てられました。
鐘楼は入母屋造で、瓦棒銅板葺きです。袴腰形式の鐘楼として知られ、梵鐘には寛永20年の林羅山による銘が刻まれています。
山門は三間一戸二重門で、入母屋造の瓦棒銅板葺きです。上層には釈迦如来と十六羅漢像が安置されています。英勝院尼の一周忌に際して水戸光圀の兄である松平頼重により造営されました。
英勝寺には5棟の建造物が重要文化財に指定されています。これには仏殿、山門、鐘楼、祠堂、祠堂門が含まれます。また、木造阿弥陀如来及び両脇侍像龕も重要文化財として指定されています。
鎌倉市指定の文化財としては、絵画、彫刻、天然記念物などが含まれます。これには竜虎図六曲屏風、南都八景図、善光寺縁起絵巻、阿弥陀如来立像、聖徳太子立像などがあります。
清因尼は徳川頼房の娘であり、寛永5年に江戸で生まれました。彼女は寛永11年に英勝院の養女となり、翌年に得度しました。英勝寺の開山住持に任ぜられたのは8歳の時で、住持を務める間、英勝院の七回忌に合わせて常紫衣を許されました。元禄8年には、68歳で住持を清山尼に譲り、享保2年に90歳で示寂しました。
清山尼は水戸藩2代藩主徳川光圀の養女で、寛文11年に水戸で生まれました。彼女は8歳の時に江戸で得度し、清因尼の法嗣となりました。元禄8年には住持となり、享保7年に52歳で示寂しました。
清玉尼は高松藩3代藩主松平頼豊の娘であり、享保3年に江戸で得度しました。彼女は7歳の時に清山尼の法嗣となり、享保7年には住持に任ぜられました。宝暦13年に52歳で示寂しました。
清薫尼は宍戸藩4代藩主松平頼多の娘で、宝暦13年に養女として徳川宗翰の家に入りました。7歳で英勝寺に入り、明和5年に11歳で示寂しました。
清月尼は水戸藩5代藩主徳川宗翰の娘であり、7歳で英勝寺に入りました。文化14年には54歳で示寂しました。
清吟尼は水戸藩7代藩主徳川治紀の養女であり、文化9年に英勝寺に入りました。嘉永6年には47歳で示寂しました。
清端尼は水戸藩9代藩主徳川斉昭の娘で、幕命により元治元年に住持となりました。彼女は16歳で還俗し、結婚しました。
英勝寺へのアクセスは、JR横須賀線および江ノ島電鉄の鎌倉駅から徒歩15分です。