ユーシン渓谷は、神奈川県足柄上郡山北町の玄倉川に位置する美しい渓谷です。この渓谷は、丹沢大山国定公園の一部であり、その自然の美しさから「丹沢の秘境」とも称されています。「ユーシン」という名称は、かつて存在したユーシンロッジ(現在は休業中)の周辺地域を指す地名から由来しています。
ユーシン渓谷へのアクセスは、かつては山神峠を越えるルートが一般的でした。しかし、1947年にユーシン渓谷沿いに全長約9kmの玄倉林道が開通し、アクセスが大幅に容易になりました。この林道は、新緑や紅葉の時期に特に美しく、多くのハイカーに親しまれていますが、観光地としての開発はほとんど行われていません。
玄倉林道の入口にはゲートが設置されており、車両や自転車の通行は禁止されています。そのため、ユーシン渓谷を訪れるには徒歩でのアクセスが必要です。また、途中には青崩隧道(あおざれずいどう)という暗いトンネルがあり、照明がないと通行が困難です。ハイキングを計画される方は、懐中電灯を必ず持参するようご注意ください。
青崩隧道は、2006年7月から2007年2月にかけて実施された安全調査で、内部にひび割れが発見されました。このため、トンネル内で落盤の危険性が指摘され、玄倉林道は一時的に完全通行止めとなりました。しかし、その後、新たに新青崩隧道が開通し、2011年11月には歩行者に限り通行が再開されました。現在も斜面崩落の危険があるため、注意が必要です。
ユーシンロッジは、1970年に神奈川県が設置した県営の宿泊施設です。この施設は、丹沢登山のベースとして多くの登山者に利用されていました。宿泊者に限り、玄倉林道を自動車で通行することが可能でしたが、2007年4月に前述の隧道ひび割れの影響で営業が休止されました。しかし、避難設備としては現在も利用可能です。
2014年7月、神奈川県の緊急財政対策の一環として、ユーシンロッジの民間移譲が検討されましたが、引き受け手は見つかりませんでした。そのため、2015年3月時点でも運営は休止されたままであり、同年7月にはロッジの利活用に関する提案が公募されました。
ユーシンという名前の由来にはいくつかの説がありますが、最も有力なものとして、大正時代に森林管理小屋の番人であった小宮兵太郎が、「谷深くして、水勢勇まし」という意味から「湧津」と名付けたという説があります。また、昭和初期には「ユウシン休泊所」が設置され、1951年の三保村公史には「涌深」と記載されています。
ユーシン渓谷には、熊木ダムと玄倉ダムがあり、これらのダムは神奈川県企業庁が設置した玄倉第2発電所および玄倉第1発電所で水力発電に供されています。これにより、渓谷内は自然景観だけでなく、インフラとしての役割も果たしています。
ユーシン渓谷へのアクセスは、小田急線新松田駅またはJR御殿場線谷峨駅から「西丹沢自然教室」行きの富士急湘南バスに乗車し、「玄倉」で下車するのが一般的です。また、車を利用する場合は、東名高速道路の大井松田ICまたは御殿場ICから国道246号を進み、「清水橋」交差点を曲がり丹沢湖方面へ進むルートがあります。ただし、湖畔からの唯一のアクセス道路である玄倉林道は、車両通行禁止区域となっており、通行には神奈川県庁の許可が必要です。