足柄峠は、神奈川県南足柄市と静岡県駿東郡小山町の境界に位置する峠で、標高759mを誇ります。この峠は箱根外輪山の北側に伸びる尾根上に位置し、箱根峠と共に東海道を構成する重要な地点です。
足柄峠は、古代から交通の要衝として重要な役割を果たしてきました。縄文時代から奈良・平安時代にかけて、この地では土器片が採取され、古くから人々の往来があったことが確認されています。かつては「足柄坂(あしがらさか)」と呼ばれ、東を「坂東」と称し、足柄峠はその入り口として位置づけられていました。
律令時代には、足柄峠を越える道が東海道の一部として整備され、「足柄路(矢倉沢往還)」と呼ばれるようになりました。しかし、800年から802年にかけての富士山の延暦噴火により、足柄路の使用が一時的に停止され、代わりに箱根峠を通る「箱根路」が整備されました。
鎌倉時代以降、急勾配ながら距離が短い箱根路が主流となり、足柄路の利用は次第に減少しました。しかし、1336年に南北朝時代の幕開けとなる「箱根・竹ノ下の戦い」では、足柄峠が戦略的な要所として再び注目を浴びました。この戦いでは、足利尊氏の軍勢が峠を越えて新田義貞の軍勢を破りました。
江戸時代には、東海道の主要街道として箱根路が使用され、足柄路は脇街道として整備されました。1889年には、足柄峠の北側に沿って東海道本線(現・御殿場線)が開通し、戦後には国道246号や東名高速道路が整備されました。これにより、静岡県北駿地方と神奈川県足柄地方を結ぶ交通路としての足柄峠の重要性は薄れました。
今日、足柄峠は景勝地として多くの観光客を惹きつけています。峠の静岡県側には足柄城跡が整備され、公園として開放されています。ここからは美しい富士山の眺望を楽しむことができます。一方、神奈川県側には足柄峠が万葉集に詠まれたことから「足柄万葉公園」が整備されており、相模湾や江ノ島、三浦半島までの絶景が広がります。
峠付近には、足柄山聖天堂や茶屋が点在しており、歴史と風情を感じることができます。また、黒澤明監督の映画『乱』で使用された門が関所として設置されていますが、関所の位置や形状は明確ではありません。
足柄峠は、ハイキングコースとしても人気があります。南足柄市矢倉沢の地蔵堂地区から峠までの旧足柄道は「足柄古道」として整備されており、約3kmのハイキングコースとして多くの人々が訪れます。また、足柄駅から峠までのルートも「足柄古道」として整備され、ハイキング愛好者に親しまれています。
さらに、地蔵堂地区や足柄峠からは、矢倉岳や県立21世紀の森、金時山方面へのハイキングコースも整備されており、自然散策や登山を楽しむ人々が多く訪れます。
足柄峠では、毎年9月の第2日曜日に「足柄峠笛まつり」が開催されます。この祭りは、源義光(新羅三郎)が笙の秘曲を豊原時秋に伝えたことを記念して行われ、南足柄市と小山町の共催で行われます。祭りでは、笛などの楽器の演奏が披露されるほか、両市町の小学生による陣取り綱引きも行われます。勝利した側は、城跡の広場に「相模國南足柄領」「駿河國小山領」という看板を立て、領有を宣言するというユニークなイベントも行われます。
足柄峠へのアクセスは、伊豆箱根鉄道大雄山線の大雄山駅(関本)から、箱根登山バスが運行している路線バスを利用して、矢倉沢を経由し地蔵堂まで向かうのが便利です。また、4月から5月、10月から11月の土休日には、足柄万葉公園まで直通する便も運行されています。
2020年8月から12月の土日には、足柄駅から峠に向かう片道運行の無料ハイキングバスも運行されました。過去には、駿河小山駅から足柄峠への直行バスも富士急行バスによって季節運行されていましたが、現在は運行されていません。
足柄峠を通過する主要な道路としては、以下のものがあります:
足柄峠は、歴史的な重要性を持ち、古代から現代に至るまで多くの人々に愛され続けている場所です。その豊かな自然と歴史的背景は、訪れる人々に深い感動を与えます。景勝地としての魅力、ハイキングコースとしての楽しみ、そして歴史を感じるスポットが一体となった足柄峠は、神奈川県と静岡県を結ぶ貴重な文化遺産と言えるでしょう。