神奈川県海老名市に位置する相模国分寺は、高野山真言宗に属する歴史ある寺院です。山号は「東光山」、院号は「醫王院」とされ、本尊には薬師如来が祀られています。この寺院は、奈良時代に聖武天皇の詔により日本全国に建立された国分寺の一つで、相模国の国分僧寺としてその歴史を刻んできました。本記事では、現存する寺院に加え、古代の寺院跡である相模国分寺跡や相模国分尼寺跡（いずれも国の史跡）についてもご紹介します。
相模国分寺は、奈良時代の8世紀中頃に聖武天皇の命により建立されました。この時期、相模国分寺と相模国分尼寺がほぼ同時期に建てられ、相模国分尼寺は相模国分寺から北に約600メートルの位置にありました。しかし、平安時代の国史によると、相模国分寺は度重なる火災や地震によって焼失や倒壊を繰り返し、少なくとも3回の大規模な修理や再建が行われたと考えられています。10世紀には一度衰退しましたが、鎌倉時代に再び修復されました。しかし、室町時代から戦国時代にかけて再び衰微し、安土桃山時代から江戸時代にかけて再興されました。
また、鎌倉時代に作られた梵鐘は国の重要文化財に指定されており、さらに、古代の寺院跡も国の史跡に指定されています。
平安時代に入ると、相模国分寺は律令制度の衰退に伴い、たびたび火災や地震に見舞われ、衰退の一途をたどりました。819年には火災が発生し、878年には相模・武蔵地震によって本尊を含む仏像が破損し、その後の火災で焼失したと伝えられています。発掘調査によれば、国分寺は激しい火災に見舞われ、その後少なくとも3回の再建が行われたことが確認されています。
しかし、878年以降の再建については疑問視する説もあり、878年の大地震後、相模国分寺は別の場所に再建された可能性があるとされています。一方、国分尼寺は873年に漢河寺に移転されましたが、878年の大地震で倒壊し、881年に元の場所に戻された記録があります。発掘調査でもその記録を裏付けるように、初期の建物が焼失し、茅葺きの掘立柱建物が再建されたことが確認されています。
平安時代後期から鎌倉時代にかけて、相模国分寺と国分尼寺は次第に衰退していきました。荘園制度の浸透により、寺院の経営基盤が弱まり、相模国分寺は1139年に建立された成勝寺の末寺となったと考えられています。鎌倉時代には源頼朝の命により再建が試みられ、妻の北条政子の安産祈願のために相模国内の寺社に対して神馬が奉納され、相模国分寺でも安産の読経が行われました。しかし、この時期の国分寺がどのような状態にあったかは定かではありません。
安土桃山時代になると、相模国分寺は再び記録に現れます。1590年の豊臣秀吉の小田原征伐の際、国分尼寺に制札が掲げられた記録が残っており、1591年には徳川家康が薬師堂に二石の寄進を行っています。その後、江戸時代には勧進を行い経蔵が建立され、1713年には薬師堂の隣に本堂が再建されました。
幕末から明治初年にかけて、相模国分寺は再び衰退し、本堂や経蔵、山門が倒壊しました。1910年には薬師堂が焼失し、多くの寺宝が失われましたが、本尊の薬師如来や十二神将などの仏像は救出されました。その後、仮本堂が再建され、1974年には本堂が落成し、1994年には現在の本堂に改築されました。
現在の相模国分寺の境内には、本堂、客殿、そして鐘楼があります。本堂には本尊の薬師如来が安置され、脇侍仏として日光菩薩・月光菩薩、十二神将などの仏像が並びます。本尊の薬師如来は寺伝では行基作と伝えられていますが、調査の結果、室町時代の作と推定されています。1923年の関東大震災で大破しましたが、その後修繕されています。
現在の鐘楼は1976年に建てられたもので、中には1292年に国分次郎源季頼が国分尼寺に寄進した梵鐘が収められています。この梵鐘は国の重要文化財に指定されており、鋳造したのは円覚寺の梵鐘も手掛けた名工、物部国光です。
相模国分寺跡は現在の寺院から北西に約100メートルの場所にあります。寺域は東西240メートル、南北300メートルに広がり、法隆寺式の伽藍配置を持っていました。伽藍内には、塔跡や金堂跡が残っており、その規模や建築技術の高さを伺うことができます。
相模国分寺の塔は、七重塔として知られ、その高さは約65メートルと推定されています。また、金堂は塔の東側に位置し、基壇や礎石が現存しています。これらの遺構は、かつての相模国分寺の栄華を物語る貴重な歴史的遺産となっています。