塔ノ岳は、神奈川県秦野市、愛甲郡清川村、足柄上郡山北町の境目に位置する標高1,491mの山です。この山は丹沢山地の南部にあり、関東地方の一部を構成する丹沢大山国定公園に属しています。塔ノ岳の周辺は、シカによる植生被害が深刻な問題となっています。
塔ノ岳は「塔ヶ岳」「塔ノ峰」「御塔」「尊仏山(そんぶつさん)」など、多くの呼び名を持つ山です。江戸時代末期から昭和時代にかけて、近隣の農村の人々が雨乞いや害虫除けを祈願するためにこの山に登り、多くの信仰登山が行われました。また、祭礼日の露天賭博には近隣から多くの人々が集まり、賑わいを見せていました。
かつて、山頂から約70m下った北斜面には「尊仏山」の由来となった巨岩「尊仏岩」がありました。この巨岩は秦野盆地や山北町玄倉の人々の信仰の対象となっていました。尊仏岩の高さは約7m60cmで、『新編相模国風土記稿』では約10mとされています。しかし、この巨岩は1923年の関東大震災の余震である丹沢地震(M7.3)によって大金谷へ崩落し、現在は存在していません。
さらに、江戸時代には山頂に約45cmの石塔が立っており、日向山霊山寺(日向薬師)や登山口である大倉の山伏たちがこの場所で採灯護摩修行を行っていました。この石塔が「塔ノ岳」の名の由来となっています。山頂に建つ「尊仏山荘」は、かつての尊仏岩にちなんで名付けられたものです。
塔ノ岳は、丹沢山地の中でも特に展望の良さで知られており、天候に恵まれれば富士山や南アルプス、房総半島、三浦半島、伊豆半島、さらには海に浮かぶ島々まで、360度の雄大な眺望を楽しむことができます。北には丹沢山、東には新大日、南西には鍋割山などが位置しています。
首都圏からのアクセスが良いため、多くの登山者に人気があります。日本経済新聞がYAMAPを使用して集計した「2023年に登頂回数が多かった山」ランキングでは、塔ノ岳は全国で第4位を記録しました。しかし、登山者の増加により、大倉尾根の侵食と裸地化が進行しており、植生復元の取り組みが行われていますが、その効果は限定的です。
塔ノ岳への一般的な登山ルートは、大倉から大倉尾根を経由するものと、ヤビツ峠から表尾根を経由するものの二つです。その他にも、二俣から小丸歩道(通称:訓練所尾根)、札掛から長尾尾根、塩水橋から天王寺尾根・丹沢山経由、または鍋割山経由、戸沢出合から政次郎尾根または天神尾根、書策新道(現在は廃道のため立ち入り禁止)、ユーシンから尊仏の土平(そんぶつのどたいら)を経て登るルートがあります。
また、塔ノ岳山頂からユーシンに向かう尾根を約100m下った場所には、不動の清水があります。これは丹沢の尾根筋では数少ない貴重な水場のひとつです。
大倉尾根:渋沢駅よりバスで大倉まで移動し、登り約3時間30分、下り約2時間20分
表尾根:秦野駅よりバスでヤビツ峠まで移動し、登り約4時間5分、下り約3時間15分
丹沢山まで:登り約1時間10分、下り約1時間
三ノ塔まで:登り約2時間25分、下り約1時間55分
塔ノ岳の山頂には「尊仏山荘」があり、大倉尾根の稜線には上部から下部にかけて「花立山荘」「堀山の家」「駒止茶屋」「見晴茶屋」「観音茶屋」といった山小屋が点在しています。また、かつて山頂の大倉尾根最上部には「日の出山荘」がありましたが、1980年代に閉鎖され、その後2013年3月に撤去されました。さらに、大倉尾根の見晴茶屋と観音茶屋の中間地点に位置する「大倉高原山の家」も2022年に解体され、無料のテントサイト「大倉高原テントサイト」として再整備されました。
塔ノ岳の山頂からは、富士山や南アルプス、檜洞丸、大室山、奥秩父、蛭ヶ岳、不動ノ峰、丹沢山などの山々を一望することができます。また、仏果山、経ヶ岳、関東平野、大山、三峰山、大山木ノ又大日、三ノ塔、そして相模湾も視界に収めることができます。
日高 (1,461m)、竜ヶ馬場 (1,504m)、丹沢山 (1,567m)
木ノ又大日 (1,396m)、新大日 (1,340m)、行者岳 (1,209m)、烏尾山 (1,136m)、三ノ塔 (1,205m)