横浜市イギリス館は、神奈川県横浜市中区山手町に位置し、「港の見える丘公園」内にある歴史的な西洋館です。この建物は、イギリスの歴史的な建築様式を色濃く反映し、横浜の異国情緒を感じることができる場所として広く知られています。現在は、ホールや展示室として利用され、多くの訪問者に親しまれています。
横浜市イギリス館は、1937年にイギリス総領事公邸として、イギリス軍駐屯地の跡地に建設されました。設計は、イギリス政府工務局上海事務所が手掛け、地上2階・地下1階建ての鉄筋コンクリート構造で建てられました。この事務所は、東アジアにおけるイギリスの在外公館の建設を担い、日本国内でも多くの重要な建物を手がけています。たとえば、横浜開港記念館旧館や駐日英国大使館、旧下関英国領事館、函館市旧イギリス領事館などがその代表例です。
この総領事公邸が完成した1937年は、日中戦争が勃発した年でもありました。その後、1941年12月には日本がイギリスとアメリカに宣戦布告し、両国の大使館員は日本の監視下に置かれることになりました。1942年3月には、マクビティ代理領事らが収監され、公邸は主を失ったまま終戦を迎えます。
1969年に総領事が本国に引き揚げた際、公邸の土地と建物は競売にかけられ、横浜市がこれを買収しました。その後、港の見える丘公園の施設として「横浜市イギリス館」として整備され、ホールや会議室が設けられました。1990年には、横浜市指定有形文化財に指定され、その歴史的価値が高く評価されています。2002年からは、2階の展示室と復元された寝室が一般公開されています。
横浜市イギリス館は、地上2階・地下1階建ての構造で、かつて1階には書斎や応接室、食堂、サンルームがありました。現在、これらの部屋はホールとして一体的に利用されています。2階には3つの寝室があり、そのうち1つは領事夫妻が使用していたもので、当時の様子が忠実に復元されています。残る2つの寝室は、資料の展示スペースや会議室として転用されています。
1階西側には、半円形に張り出したサンルームがあり、その上部はバルコニーとなっています。ドアノブや階段の手すりには、巻貝のような意匠が施されており、家庭的で温かみのある印象を与えます。また、寝室に連なるサンポーチには丸い窓が設けられ、これは船の舷窓をイメージしたデザインです。地下にはワインセラーなどが備えられており、かつての領事公邸としての機能が伺えます。
横浜市イギリス館の玄関左側には、王冠の図柄と「GR Ⅵ 1937」と記されたレリーフが設置されています。これは、ジョージ6世の時代に建設されたことを示すものであり、建物の歴史的な背景を物語る重要な要素です。こうした細部にわたるデザインから、当時のイギリス文化がどのように横浜の地に根付いていたかを感じ取ることができます。
現在、横浜市イギリス館は「港の見える丘公園」の施設として一般に公開されており、1階ホールは60人程度までのコンサートや発表会などに利用されています。利用のない日には、見学が可能で、訪れた人々はその美しい建築と歴史に触れることができます。また、2階の復元された寝室や展示室も公開されており、当時の生活様式や歴史的背景を学ぶことができます。
入館は無料で、毎月第4水曜日には休館日が設けられています。これにより、多くの訪問者が気軽に歴史的な建物を訪れることができるようになっています。
横浜市イギリス館は、「港の見える丘公園」内に位置しており、周辺には他にも多くの観光スポットがあります。例えば、山手111番館や神奈川近代文学館、大佛次郎記念館などがあり、これらも内部を公開しているため、歴史や文化に興味がある方にとっては見逃せないスポットです。
また、少し足を伸ばすと、エリスマン邸やベーリック・ホール、山手234番館といった元町公園内の西洋館も訪れることができます。これらの建物も、横浜の歴史と異国文化の影響を感じることができる場所として人気があります。
さらに、外交官の家やブラフ18番館は、山手イタリア山庭園内に位置しており、こちらも歴史的な建築物として多くの観光客に親しまれています。横浜市イギリス館と併せて、これらの西洋館を巡ることで、横浜が持つ独特の歴史と文化をより深く理解することができるでしょう。