山手234番館は、神奈川県横浜市中区山手町にある歴史的な西洋館で、横浜の豊かな歴史と文化を今に伝える建物です。この館は、1923年の関東大震災後に建設され、横浜市の復興の象徴とも言える存在です。
1923年9月1日に発生した関東大震災では、横浜の多くの家屋が倒壊し、山手地区もその例外ではありませんでした。震災による被害は甚大で、瓦礫の山となったこの地域から、多くの外国人が神戸市や上海などの他の都市に避難し、震災前に7650人いた外国人の数は、翌年には2156人にまで減少しました。横浜市は震災後の復興を急ぎ、外国人を呼び戻すために山手や根岸に市営住宅を建設しました。山手234番館も、こうした外国人向けの集合住宅の一つとして1927年に竣工しました。民間事業によるものではありますが、震災後の復興を象徴する建物です。
第二次世界大戦後、この建物は占領軍に接収され、1980年ごろまで外国人向けアパートメントとして使用されていました。しかし、1989年には景観の保全を目的として横浜市がこの建物を取得し、1997年から保全改修工事が行われました。1999年からは一般公開され、横浜市認定歴史的建造物にも選定されました。
山手234番館は、地上2階建ての木造建築で、中央にある玄関を挟んで左右対称の間取りが特徴です。各階に3LDKの同一形式の部屋が2戸ずつあり、合計で4戸の集合住宅として設計されました。寄棟造の屋根はセメント瓦で葺かれており、建物全体にシンメトリーなデザインが施されています。
建物の設計者は朝香吉蔵で、彼は1923年に建築事務所を開設し、震災復興に関わる多くの建築に携わったと考えられていますが、現存する建築物として明らかになっているのは、山手234番館と隣接する「えの木てい」(旧 山手89-6番館)の2棟のみです。これらの建物には多くの意匠の共通点が見られ、朝香の独自のデザイン哲学が反映されています。
館内は、1階と2階で異なる用途に分かれています。1階左側の居間兼食堂には家具が配置され、当時の部屋の様子が再現されています。これにより、かつての外国人居住者たちの生活様式を感じ取ることができます。1階右側には創建当時の復元模型が展示されており、訪れる人々に建物の歴史的背景を伝えています。
2階は貸しスペースとして利用されており、展覧会や文化イベントなどが定期的に開催されています。このように、山手234番館は過去の歴史を伝えるだけでなく、現在も活発な文化活動の場として活用されています。
現在、山手234番館は元町公園の施設として管理されており、館内を無料で見学することができます。また、エリスマン邸やベーリック・ホールといった、同じく歴史的価値のある建物も一般公開されており、横浜の歴史散策には欠かせないスポットとなっています。
アクセスについては、みなとみらい線元町・中華街駅から徒歩8分、またはJR根岸線・市営地下鉄桜木町駅から神奈川中央交通バス11系統で「元町公園前」下車、すぐという便利な立地にあります。ただし、第4水曜日は休館となっていますので、訪問前には確認が必要です。
山手234番館は、関東大震災からの復興と外国人居住者たちの歴史を今に伝える貴重な建物です。訪れる人々は、その美しい建築とともに、横浜の豊かな歴史と文化を感じることができるでしょう。過去と現在が交錯するこの場所で、横浜の魅力を再発見してみてはいかがでしょうか。