汽車道は、神奈川県横浜市にある桜木町駅前と新港地区を結ぶ遊歩道です。この遊歩道は、かつての鉄道廃線跡を活用して1997年に開通しました。港湾環境整備施設（港湾緑地）として整備され、地元の人々や観光客に親しまれています。本項では、遊歩道としての「汽車道」だけでなく、その歴史や産業遺産としての価値についても詳しくご紹介いたします。
汽車道は、2002年に設定された「開港の道」という散策コースの一部を成しています。このコースは、桜木町駅から港の見える丘公園までを結ぶもので、その起点側に当たります。また、この道の一部は、みなとみらい地区の運河パークを通り抜ける形となっています。元々は「ウィンナープロムナード」と呼ばれていましたが、1996年に行われた名称公募により「汽車道」という名前に改称されました。
汽車道は、1911年に開通した旧横浜駅と新港埠頭を結ぶ臨港線（通称「税関線」）の廃線跡を利用しています。この臨港線は、当初は貨物輸送のために作られ、新港埠頭の横浜港荷扱所（後に横浜港駅へ昇格）を経由して、岸壁や倉庫の前、さらには横浜税関構内の荷扱所までを結んでいました。1920年からは、サンフランシスコ航路の出航日に限り、旅客列車（ボートトレイン）の運行も行われていましたが、1961年の氷川丸の最終航海をもって旅客運送が終了しました。
その後、貨物支線としては1986年に廃止されましたが、1989年の横浜博覧会開催時には、この路線を利用して旅客列車の運行が行われ、博覧会終了とともに再度廃線となりました。そして、1997年に「汽車道」として整備され、現在の形になりました。
汽車道には、日本丸側と新港地区を結ぶ2つの人工島と3本の橋梁があります。これらの橋梁は、横浜市認定の歴史的建造物として保存されています。それぞれの橋梁は、以下の通りです。
港一号橋梁は、1907年にアメリカン・ブリッジで製作され、1909年に鉄道院により架設されたトラス橋です。30フィートの鈑桁橋2連と100フィートのトラス橋からなり、複線相当の幅を持っています。この橋梁は、2012年から2013年にかけて補修工事が行われました。
港二号橋梁も港一号橋梁と同様に、アメリカン・ブリッジで製作された複線トラス橋です。両者は同じ年に製作されたため、非常に似た構造を持っています。
港三号橋梁は、元々1906年に架設された北海道炭礦鉄道夕張線の夕張川橋梁と、1907年に架設された総武鉄道江戸川橋梁の2基のトラス橋からなり、1928年に横浜生糸検査所引込線の大岡橋梁として転用されました。現在は、夕張川橋梁のトラスの一部が再移設され、プロムナードに沿って保存されています。この橋梁は、一号・二号橋梁とは異なり、イギリス製でトラスの高さが低くなっているのが特徴です。
汽車道は、土木学会による「土木学会デザイン賞2001」において最優秀賞を受賞しました。選考委員は、みなとみらい21の中心に位置するこの歩行者空間が、歴史的資産を巧みに保全・活用しており、特に汽車道をまたぐ「ナビオス横浜」の開口部から見える赤レンガ倉庫への景観を高く評価しました。
汽車道の3つの橋梁は、2007年に経済産業省が公表した「近代化産業遺産群33」の一つに認定されています。これにより、横浜港の歴史を証する重要な遺産として、現代にその価値が再確認されています。
汽車道の木製歩道（ウッドデッキ）は、老朽化に伴い2024年3月から5月にかけて補修工事が行われています。この工事は歩道幅の半分程度で実施されており、通行止めは行われていません。バリケード越しに見学することもでき、線路の全容や枕木、バラストなどが確認できます。工事は順次行われ、今後も数年間にわたって進められる予定です。
汽車道周辺には、みなとみらい地区の運河パークがあります。1999年に開園したこの公園は、日本丸メモリアルパークや象の鼻パーク、大さん橋方面と行き来する水上バスの乗り場「ピア運河パーク」があり、観光客にとっても魅力的なスポットです。また、2021年には桜木町駅前より発着するロープウェイ「YOKOHAMA AIR CABIN」の「運河パーク駅」が開設され、新たな観光名所として注目されています。
このように汽車道は、歴史的価値と現代の観光資源としての両面を持つ場所であり、横浜の過去と現在を繋ぐ重要な役割を果たしています。