大涌谷は、神奈川県箱根町に位置する箱根火山の一部で、火山性地すべりによって形成された崩壊地形です。この地域は地熱活動が盛んで、活発な噴気が観察される場所でもあります。
標高800メートルから1,000メートルの冠ヶ岳の北側斜面に広がり、箱根火山の噴気地帯の中でも最大規模を誇ります。一帯には硫黄の臭いが漂い、大地に白煙が立ち込める荒涼たる景観は、火山活動の迫力を感じられます。
また、噴気と地下水を利用した温泉の供給源としても機能しており、多くの宿泊施設に温泉が供給されています。
大涌谷は、約3,100年前に起こった箱根最高峰の神山の水蒸気爆発による山崩れが始まりとなって形成されました。この時の山崩れで堆積物が蓄積され、さらに約2,900年前には小規模な火砕流が発生し、新たに冠ヶ岳が誕生しました。この過程で火山砕屑物が積もり、現在の大涌谷が形作られました。また、大涌谷から強羅付近にかけての地下には、複数のじょうご型カルデラ構造があり、これらは強羅潜在カルデラ構造と呼ばれています。
大涌谷周辺では、有史以来、いくつかの火山活動が記録されています。12世紀から13世紀には3回の火砕物降下がありました。1910年には、血池沢付近での土石流により6名が犠牲になりました。1933年には噴気活動が活発化し、噴気孔が移動した結果、1名の死者が出ています。その他にも、1948年の地すべり、1974年から1978年にかけての噴気地帯の移動など、様々な火山活動が観測されています。
2000年以降も大涌谷では多くの火山活動が観測されました。2001年には大涌谷の蒸気井が暴噴し、2002年には冠ヶ岳の東側斜面が崩壊し、土石流が発生しました。2015年には火山性地震が増加し、5月6日には噴火警戒レベルが2(火口周辺規制)に引き上げられ、周辺地域への立ち入りが制限されました。その後、6月29日には火山灰の降下が確認され、7月には新たな火口の形成が確認されました。この間、噴火警戒レベルは3に引き上げられましたが、8月下旬頃からは地震活動が沈静化し、9月には警戒レベルが2に引き下げられました。その後も活動は徐々に落ち着き、2016年には箱根ロープウェイの運行が再開されました。
大涌谷は、江戸時代には「地獄谷」や「大地獄」と呼ばれていましたが、1873年に明治天皇・皇后の行幸啓に際し、現在の名称に改称されました。1970年には修学旅行中の児童が落石により死亡する事故が発生し、それ以降、観光客の安全が重視されるようになりました。1983年には「富士箱根伊豆国立公園大涌谷園地」として整備され、箱根ロープウェイを利用して容易に訪れることができる観光地として発展しました。
大涌谷では、噴気や硫黄を観察することができるほか、地熱を利用した「黒たまご」が名物となっています。この黒たまごは、温泉に含まれる硫黄と鉄分が卵の殻を黒く変色させたもので、1個食べると7年寿命が延びるという伝承があり、観光客に人気です。また、2014年に開設された箱根ジオミュージアムでは、箱根火山の成り立ちや地衣類であるイオウゴケなどを観察することができます。
箱根山の神山の北側には、大涌谷園地があり、園地内には約600メートルの周回ルートである「大涌谷自然研究路」が整備されています。この園地は、火山活動により度々立ち入りが制限されることがありましたが、安全対策が施された後に部分的に再開されました。
大涌谷の噴気地帯は、箱根火山全体の約26.3%の放出熱量を占めています。この地域では、豊富な自然噴気のほか、30本以上の掘削井戸からの熱噴気と地下水を混合して温泉が造成されています。また、噴気を減少させる目的で人工的な噴出口の掘削が行われることもあります。
大涌谷から放出される噴気ガスには、水(H2O)や硫化水素(H2S)、二酸化炭素(CO2)、亜硫酸ガス(SO2)などが含まれており、その成分の約98%が水蒸気です。これらのガスは周辺環境や観光客の健康に影響を与える可能性があるため、訪問時には注意が必要です。
大涌谷は、箱根火山の一部として今後も火山活動が続く可能性があります。観光地としての魅力を保ちながらも、火山活動に備えた防災対策の強化が求められています。また、大涌谷の自然や歴史を学ぶ場として、今後も多くの人々に訪れ続けられる場所であり続けるでしょう。
9:00~17:00
なし
公共交通機関:箱根湯本駅から箱根登山鉄道線で約40分、強羅駅 下車 → 強羅駅から箱根登山ケーブルカーで約10分、早雲山駅から箱根ロープウェイで約10分 大涌谷駅 下車、徒歩すぐ
車:東名高速 御殿場ICより約45分